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マーメイドメイド
マーメイドメイド

 大学に入り、早速、ノリと気分だけで『スーサイドガイド』という小説を書いた。当然、出来が悪かったので、文芸サークルに持って行けないから、代わりに書いて持って行った作品です。デビュー作。
 最後の落ちは書きながら考えました。本当は落ちは考えていなかったのですが、それでは納得しない読者もいるだろうから付け加えました。急なアイディアで困惑した覚えがあります。
 久し振りに人が死なないほんわりとしたライトなパズルミステリーです。たまにライトなものを書くと、気分がすっきりするのはなぜでしょう?

以下本文です。
マーメイドメイド

人魚のように美しく
メイドのように忠実な
そんな素敵なコは誰だろう?

 通された部屋は、部屋にしては無駄に大きく、しかし会堂にしてやはり小さいオープンスペースだった。例によって白い床、壁、そして天井。小洒落た小さなテーブルと椅子が十分に距離を保って規則的に並べられている。何となくカフェに近い空間だった。
 入口から右手の壁はほぼガラス張りの状態で、人工的な整備によって整えられた庭園が広がっているのが見渡せられる。強い風が吹こうとも草木はその妙趣を欠かさない。不変でかつ普遍の美だ。
 ところで、この広い部屋は、しかしカフェとは徹底的に違う点がいくつかある。まず、カウンターも厨房もない。メニューもないし、客もいない。そして、入口左手にずらりと7人の使用人が並んでいること。
「どうぞ。座って」
「ステンレスだね」テーブルの素材である。「成分、覚えてる?」
「鉄とクロム、それからニッケルですね。誰でも知ってると思いますけど、語源はstainが汚れで、lessが否定のサフィックスです」
「ステンレス鋼はね、クロムが酸素と結合して不動態を形成するから錆びにくいんだよ」
 というやり取りを終え、2人は着座する。
 部屋には10人の人間がいる。
 まず着座を進めた女性。名前は七ツ木瀬蓮(ななつぎ せれん)といい、この豪邸の住人であり、主の一人娘でもある。某国立大学2回生の学部生だ。長い髪をすらりと垂らしたクリーム色のロングヘア。清潔さをイメージした白っぽい洋服と、色白の肌がよく似合っている。ロングスカートから覗いている足は折れてしまいそうなくらい細い。そもそも健康な癖に体全体が不健康なように細く、その所為で背が高く見える。風が吹いたら屋根まで飛んでいきそうな体系の持ち主だ。
 次に、律儀にステンレスの語源まで解説をしてくれた少女。名前を莨谷めがみ(たばこだに めがみ)という。同大学の一回生の学部生である。癖のない髪で眺めのショートヘア。小柄な体系で、できる限りコンパクトにまとめた18歳といったところ。左手にはミサンガのような小さな腕時計をしている。シャツにミニズボンという彼女にしてはあり得ない程の軽装備だった。
 続いて、わざわざステンレスの話を持ち出した張本人。名は磨葉理屈通し(するは りくつどおし)。同じく同大学の2回生で、瀬連とは同じ学部の同級生。髪は耳を覆うほど長く、容貌は一見、女の子だが、圧倒的に、そして徹底的なまでにお洒落を知らないので見間違うことはあるまい。黒のシャツに黒のズボン。インドア派の所為か、肌は白いので浮いて見える。
 最後に7人の使用人。但し、全員女性である。
「ここは客間よ」
瀬蓮は座りながら言う。今、3人が同じテーブルに顔を突き合わせている状態となる。
「どうかしら?」
「素敵な庭ですねぇ」と莨谷は言う。「いつもこんなのを見れて羨ましいですね」
「私、こんなトコ滅多に来ないわ」と苦笑して答える。「で、磨葉君は? 感想聞かせてよ」
「面白いものがあるっていうから僕は来たんだけど、面白いものって言ったらステンレス鋼くらいだよ」
「面白いものはちゃんと用意してます」威張るように言う。そして、頬杖して少し身を乗り出す。「ほら、7人の使用人さんがいるでしょ?」
「いるみたいだね」
「しかも、全員女性です。つまりメイドさんってわけ」
「そうかもしれない」
 全員同じ服装。
メイドとは言うが服装はスーツ姿に近い。
「そしてこれが7人の名簿よ」
 瀬蓮はどこかにあるらしいポケットから名簿表を出す。7人の名前が書かれている。その横に簡単な備考欄があって、それぞれ短い言葉が書かれている。つまり、それぞれの簡単なデータだと考えて良い。
「いい? この中で一番、人魚っぽい人を当ててみて」
 というのが今回の話らしい。


 莨谷が磨葉の下宿に訪問したのは昨日の夜。
 連休に入り、磨葉は学校に出なくなったばかりか、メールにすら答えなくなって、心配で見に来たというのが言い分である。ちなみに、彼女が訪問するのは度々だ。
 磨葉は物を捨てたがらない質の人間で、ダンボールやら、大きな封筒やらを必ず取っておく。莨谷が捨てなければ、部屋の使用面積は小さくなる一方である。実際、彼女は訪問すると決まって部屋の整理をし始める。
「何してたんですか?」
「明日暇?」
「これ、捨てていいんですか?」
「友達に招待されたんだ」
「何に招待されたんですか?」
「あ、それ捨てちゃ駄目」
「その友達の家に行くって約束ですか?」
「そう。明日」
「でも、私が行ってもいいんですか?」
「駄目だとは言われていない」
「普通に考えたら駄目なんですけど」
「面白いものがあるってさ。それが目的。ただそれだけの訪問。だからメガがいても本質には影響ない」
 メガというのは莨谷のことだ。
「面白いもの・・?」
「まだ不定。訪問したら分かるっていうシステム。らしい」
 部屋の整理は大方済ませ、莨谷は黙って台所に移動する。彼女が会話中に黙るのは考え事をする時。黙らないと考えられない質らしい。
「台所は整理しなくていいよ。というか最近使ってないし」
「あ。料理でもしようかな、と」
「材料なんてあるかな?」
「カレーですけど、ニンジンさえあれば。確かこの前、私が入れたはずです」
「だったらない。この前挨拶回りであげた」
「それはとんだ挨拶だったですねぇ」
「じゃあ、代わりにお茶っ葉でも入れよう」
「その容赦のない発想が役に立つ日が来たらいいんですけど」
「ニンジン抜きでいいよ。ハンバーガーだってピクルス抜きがあるし」
「なんかあんまり心強くない類似例ですね」
「ありかは砂糖無しでコーヒー飲むって言ってたし」
「まあ、それに至っては論外ですが」
「じゃあ、ニンジンの代わりにジャガイモでも入れようよ」
「入れますとも!例えニンジンがあったとしてもジャガイモは入れますよ」
 莨谷はジトリと磨葉を睨んだ。
 結局、肉じゃがモドキを作った。
 テーブルに並べて2人で食べる。2人は同じ施設で育った仲で幼馴染みというより、兄妹である。
「コンニャクが欲しかったです」
「七ツ木瀬蓮っていう僕の同級生」
「どんな人なんですか?」
「僕を招待するような人」
「となると、相当な物好きさんということですね」
「噂に聞くと、市内に住んでいて、かなりのお金持ちだって。あれ?これって人の説明かな?」
「ははあ。ということは・・」莨谷は新たな情報で、今までの空想をキャンセルし、新たに構築させていく。「招待っていうのも満更ではなかったんですね」
「実際、迎えにさえ来てくれるらしい。そんな話。これが明日の話」
「他に噂とかないんですか?」
 ここで磨葉は微笑を浮かべる。
「メガ知ってる? 噂って2つ意味があるんだ。1つは、興味本位で事柄を言いふらすこと。2つ目は、本人のいない場所でその人の話をすること」
「つまり、今ここで七ツ木さんの話をすると噂になっちゃうんですね」
「そうなる。じゃあ問題。噂と伝説の違いは?」
 メガは黙る。箸さえも止め、ジュースを飲んで口の中をクリアにする。
 クリアな状態で彼女は思考する。注意の用量の空きが多くなり、思考行動に専念しやすい。合理的でかつ基本的な行為だ。
「時間です」メガは言う。「伝説は過去のエピソードに対する伝承ですよ。噂は現在のエピソードなんです」
「例えば、カレーにお茶っ葉を入れたとするよ」
「ち、ちょっと想像できませんけど・・」
「すると『メガはカレーにお茶っ葉を入れた』という伝説になるかもしれない」
「確かに伝説的な記録ですけど、私が入れたって設定なんですか?」
「でもこの程度の過去なら『噂になった』でも可笑しくない」
「じゃあ、時間は過去でも現在でも取れるくらいだってことなんです」
「『この谷にはドラゴンが住んでいるという伝説』。『源義経はチンギスハーンであるという噂』」
「後者は微妙な使い方です」
「でも一応定義は外していないはず」
「じゃあ、答えは何だって言うんですか?」
「答えはない」
「え」
「ただの言葉遊び。そもそもすべての問いに答えが用意されているだなんて、とんだ先入観だね。例え万人が納得できるストーリーがあったとしても、それが真実とは合致しないかもしれない。ならば、この世は理屈の固まりだよ。真実が解釈容易なストーリーなら、リアルに必要なものは解釈納得のファクター、つまり理屈の捏ね方なんだよ。まあ、屁理屈だけどね」
「としますと」
「とすると、気にいるか否かで問いを考える。これも一種の遊び方」
「では、先輩の意見を聞きたいですね」
「そして答えのないものを考え続けるのも遊び方だよ」
「分かりましたよ。また面白い答えを考えてきます」
 それから世間話が暫く続く。
 白の卵と赤っぽい卵は、ニワトリにやるエサの違いらしいという話の後は、お互いがお互い好き勝手喋って仕舞いにする。


花貝由里沙(はながい ゆりさ)    歌が上手
水科ふい(みずしな ふい)      カゼをよくひく。
姫鯛ひと(ひめだい ひと)      水泳部
笠子りの(かさご りの)       ピアノが弾ける
高鮠優(たかはや ゆう)       料理が上手
鳴鳥詩衣(なとり しい)       最少年
銀峰氷(ぎんみね ひょう)      仕事テキパキ
 というのが渡された名簿。
「人魚って、やっぱり『人魚姫』ですか? アンデルセンの」
「だったらどうなの?」
「人魚姫は歌が上手ですよ。だから花貝さんですか?」
「でも、水泳部で泳ぐのが上手い姫鯛さんをどう否定するの?」
「姫鯛さん」莨谷は問う。「得意な泳ぎは何ですか?」
「えっと・・バタフライ・・だったかな・・?」
「ほら。人魚はバタフライしませんよ。いいですか。魚の尻尾は縦に付いているんです。動物であるクジラ、イルカの尻尾は横にくっついてるんですよ。バタフライは魚の下半身を持つ人魚には無理です」
「成程。面白い」磨葉はしかし続ける。「だけど、人魚のモデルはジュゴンだっていうよね。ジュゴンは尻尾が横に付いているよ」
「ジュゴンはバタフライなんてしませんよ」
「人魚はするかもしれない。というか、人魚の尾っぽってホントに縦なの?結構、横の絵は見るけど。結局、人魚って魚じゃない動物なんじゃない?」
「確かに、ですねぇ。それにバタフライが得意だっただけで排除するのは無理があります」
「何か飲む?」瀬蓮は言う。「私、バナナジュースがお勧めなんだけど」
「人魚っぽい人って1人なんですか?」
「ええ、そうよ。云わば、マーメイドメイドってトコかしら」
「そう言えば、足のある人魚に水をかけると尻尾に戻るとか」
「えらく狭い世界の話ですね」
「人魚の肉を食べたら不老不死なるらしいよ」
「食べろって言うんですか? 答えが分かってるからって遊ばないで下さい」
「答えなんてないよ。七ツ木さんがどういう答えを用意してるかは知らないけど、納得できる面白いものを考ればいいの」
 莨谷はメイドを一瞥する。
 髪の長いメイド。
 脊の高いメイド。
 三者三様、七人七色。
 無論、人魚っぽいと感じる人はいない。
「人魚ってマーメイドですよね?」
「西洋と東洋じゃ結構違いがあるらしいけどね。語源は?」
「merがフランス語で海。maidが女です。男の人魚をmermanと言うそうですし。マーライオンの『マー』も同じです」
「僕、レモンティーがいい。冷たいので」
「持って来てくれる?」
「畏まりました」とメイドが一人部屋を出ていく。銀峰だった。
「笠子さん。ピアノってどんな曲ひくんですか?」
「そうですね・・私は・・・」
 ここで十数分のピアノ概説が繰り広げられる。
 笠子はかなりお喋りらしく、趣味のことは喋り出すと止まらなかった。
 その間、銀峰は部屋に戻り、磨葉はレモンティーを手に入れる。
 結局、笠子は趣味について語っただけで、結論は莨谷たちには伝わらなかった。
「うーん。高鮠さんはどんな料理が得意なんですか?」
「えと・・得意とか、ないんですけど。というか、お嬢様が『料理が得意』って書かれただけで、私、そんなに・・」
「じゃあ、銀峰さんはどんな仕事が好きなんですか?」と磨葉。
「あ。分かりました」莨谷は言う。「マーメイドメイドは水科さんですね」
「へぇ、どうして?」と瀬蓮は言う。
「だって水科さん、今風邪をひいてマスクをしています。声が出せないから人魚なんですよ」
 水科ふいは、小柄のツインテールのメイドだった。確かに大きなマスクをしている。
「人魚は足を手に入れて、声を失うんです。だから水科さんが一番人魚っぽいんです」
「それ面白いね」磨葉は言う。「それで正解でいいの?」瀬蓮に訊く。
「違うわ。彼女は風邪をひきやすいけど、今は花粉症なだけよ。声は出せるの」
「えー」莨谷困ったように小さな悲鳴を上げる。「そんな・・」
「磨葉君はもう分かってるの?」
「どうだろうね? 僕なりの考えは持っているけど」
「メガちゃんはもうギブかしら?」
 莨谷は答えず、黙って7人のメイドを観察している。
 思考のため、応答をスキップさせたようだ。
 ツインテールが水科。
 ストレートのロングが鳴鳥。
 ストレートヘアが花貝、姫鯛。
 ショートヘアが銀峰。
 ウェーブが高鮠、笠子。但し、笠子は茶髪である。
 人魚はやはりロングストレートか。
 いや、やはり純粋に歌の上手な花貝かもしれない。姫鯛が人魚っぽくない説明を考える方が楽かもしれない。
 持参の電子辞書で人魚をひく。
 胴体から上は若い女性で魚の尾を持つという想像上の動物。または、ジュゴンの別称。
 若い女性というから、最年少の鳴鳥か。いや、それだけじゃ苦しすぎる。
 人魚姫は英語でリトル・マーメイド。一番小柄なのは水科だ。だが、そもそも人魚姫という保証はない。
 そう言えば、先輩は西欧と東洋では人魚の概念が違うと言っていた。
 西洋はマーメイドであり、今まで考えてきたように歌が上手く、人間の足を手に入れるために声を失った悲劇のヒロインだ。
 一方、東洋では様々な妖怪として言い伝えがある。八尾比丘尼の話だと人魚の肉で不老不死になれると言われている。
 しかし、いくら考えてもこんな民俗伝承と目の前の7人のメイドとが結びつかない。
 他に重要な人魚の情報があり、それが不足しているのか?いや、そんなにマイナーな設定を答えにしてしまうと詰らないし、考える方としてもキリがない。
 ならば、メイドの方の情報が不足している。
 しかし、先輩は既に何かを考えたと言う。いや、先輩の場合は観察から、新しくそしてマイナーな情報を手に入れた可能性もある。だが、これもキリがない。
 ところが、わざわざ手渡された名簿がある。
 つまり、この名前と備考欄との関連性に答えがあるのかもしれない。この微小な関連性に先輩は気づき、逸早く正解を創造したかもしれない。
 冷静になると、名前と備考欄の関連性というのも確かではない。どちらかが人魚っぽかったらいいだけだ。アナグラムかもしれない。
MERMAID。
MERMAIDMAIDならMが3つ。A、I、Dが2つ。E、Rが1つ。
マーメイドメイドのアナグラムでマイメイドメード、から『マイ・メイドのメイド』ということで、実は瀬蓮のメイドは1人だけで、他は父親のメイドかもしれない。
マーメイドメイド・・・メイメイドマドー・・・マメメイドイドー・・・
莨谷にはこれ以上は思い浮かばなかった。
ちなみに、『マイ・メイドのメイド』説は外れだった。
「降参です。考え尽しました」
「それは考えが足りないか、それとも物凄い高速思考速度の持ち主かだね」
「私にはこれ以上思いつかないんです」
「きっと時間を置くともっと思いつくよ。個体概念に囚われているかもしれない。思考が知らないうちに制限されている可能性がある。一度、頭の中のパノラマをキャンセルして、柔軟に考え直したらいいよ」
「柔らかく、ですか・・」
「アスファルトって案外柔らかいらしいね」
「ギリシャ語でasphaltosですが、aが否定のプレフィックスで、sphalが『躓かせる』という意味で、躓かせないものっていう意味らしいです」
「ねえ、『人魚姫』の話は覚えてる?」
「え? 確か・・」
 莨谷は手短に『人魚姫』の話を語る。
 人魚が王子様を助けること。
 その王子様に恋をすること。
 そして、人間の足の代わりに声を失うこと。
「でも、このとき、実はもう一つ条件があったんですよね。人魚姫は王子様と結婚しなかったら海の泡となって消えてしまうんです」
 しかし、声を失った人魚姫は王子様に命の助けたことを伝えられない。
 しかも、王子様は別の娘が命の恩人だと勘違いをしてしまい、その娘との結婚が決まる。
 人魚姫が消えずにすむ方法は、結婚前に王子様を短剣で刺し殺すことだが、彼女にはそれはできず、とうとう消えてしまうという何とも儚く切ない悲劇のストーリー。
「へぇ、そういう話だったのね」と瀬蓮は感心したように言う。「私、途中までしか知らなかったわ」
「詳しいねメガ」
「実はさっき、電子辞書で調べたんです。でも、こういう話って覚えているっていうより、おぼろげなイメージが残ってるって感じですよね」
「ストーリーのイメージは別のイメージを生む。例えば、『人魚姫』のイメージは人魚そのもののイメージになってしまうんだよね。つまり固定概念になりうる。きっとメガは『人魚姫』の設定でマーメイドメイドを探したんじゃないかな?」
「確かにそうですけど・・違うって言うんですか?」
「いや。ただ人魚には極々基本的でかつ簡潔にして決定的ながらも根本的な定義がある。これは東洋も西洋も一致合致したボーダレスにしてオールマイティなセッティング」
 磨葉はレモンティーを飲み干す。そして、再び口を開く。
「人魚の胴体は人間で、下半身が魚であるという設定」
「ははあ。それはそうですけど・・」
「サルと魚の死体を用いてこの人魚のミイラを偽作して、ヨーロッパへの輸出品ともなったくらいだから、この定義は無期限有効広範囲のユニバーサルデザインなルールさ」
「つまり、私は『人魚姫』の設定に拘り過ぎて人魚の根本的な設定を無視していた、と言いたいわけですか。でも、こんな設定、どう使うっていうんですか?」
「いや、だから使おうと思ったらこんな設定もあるよってことだよ。答えは三者三様。解答正解が唯一だなんてナンセンス。真実事実を唯識に捉えるならば慎重かつ神経質」磨葉は続ける。「ここからは随分つらない話になる。屁理屈だけど、聞いてみる?」
「要するに、先輩はこの設定で考えたってわけですね」
「7人のメイドの名前を英語で書く」
「アナグラムですか?」
「それでもいいけど、今は違う。実際、英語で書く意味は大してない。ただ、ファーストネームとファミリーネームの順序が入れ替わる。ただそれがしたいだけ」
 Yurisa Hanagai
Fui Mizushina
 Hito Himedai
 Rino Kasago
 Yuu Takahaya
 Shii Natori
 Hyo Ginnmine
「ほら、上が人で、下が魚なのは姫鯛ひとさんだけでしょ?」
「そんな・・滅茶苦茶ですよ」莨谷は狼狽を隠し、ジトリと偏屈な先輩を睨む。「これが正解なんですか?」と瀬蓮に訊く。
「さあ、どうかしら」瀬蓮はバナナジュースをストローで吸いながら言う。「私、正解なんて言わないかもしれないわ」
「というか、実は何も考えずに出した問題かもしれないし」
「あら、鋭いこと言うわね。でも、そうとも限らないわ」
「どっちでもいいよ。マーメイドメイドとレモンティーだけで満足」
「じゃ、また来てくれる?」
「だからもう満足だって。思い残すことはない」
「そう。だったら借りたノート返さないわよ」
「あ、肝心なことを忘れてた。あまりにも面白いアトラクションの所為で本質を損ねるところだった。俄然、また来たくもなってきた」
「もう・・」
 結局、磨葉は、7人のうち1人だけが人魚姫(NINNGYOHIME)のアルファベットのアナグラムであることを言わず仕舞いにした。
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テーマ:小説 - ジャンル:小説・文学

【2008/04/10 22:04】 | 理屈通しシリーズ | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
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