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月の静かな晩に
月の静かな晩に
 研鑽会という会で書いたもの。
 各自、タイトルだけを考え、くじ引きで引いたタイトルで作品を書く会です。
 で、引いたのがコレ。ドクチョコをしたかったが、なりきれなかった可哀そうな作品。ま、時間なかったし。

以下本文です。
月の静かな晩に
水銀箱
滿月の光 背に受けて、搖れる純白のシルエット
愛するもの汚すなら、もう後には引かせない
《『変身解除! キモけーね』(イオシス 東方月燈籠)より》

 十六恋卑弥華(いろざかり ひみか)がやっと顔を上げたのは二度目に声をかけた時だった。
 『部室』と紹介されたその部屋にただ一人ぽつんと彼女はいた。漫画の鑑賞中らしい。テーブルの上にはそれの続編らしいコミックが数冊積み重ねられている。
 部屋の広さはだいたい五畳といったところ。本棚やその他の器具を除けるともう少し広くなる気がする。取り合えず、大学のサークルの部室としてはこんなものだろう。ひそかに胸を撫で下ろす。
「あの……」
 という結構勇気を振り絞った発言はあっさりと無視された。この娘は、こんなどうでもいいところで無駄な集中力を発揮してくれた。紅のリボンで結られたこじんまりとしたポニーテールがほんの少し揺れたくらいだ。
「ええっと、もしもし……?」
「うにょ?」
 というふうな返事が返ってきたと思う。
 相手は顔だけを上げる。
「何? というか誰?」
「えっと、月ノ静加奈(つきのしず かな)といいますけど」
「ふうん。で?」
「あの、和美ヶ原(かずみがはら)から話を聞いてませんか?」
「聞いてないね。話してないか、ワタシが聞いてないか。どちらにしても同じこと」
 どちらに責任があるかという意味においては等しくはないが、このどうしようもないくらいやり辛い空気が生まれたことに関しては、どうして確かに同じことといえる。
 困ったなあ……と思う。
 とにもかくにも、ここに訪れた接点はただ『和美ヶ原十六硝子(じゅうろくれんず)』という型破りな娘一人のみだというのに、その接点が接点として機能していないのだから。
 月ノ静の下宿している部屋の隣に住んでいるのが和美ヶ原だ。声優をしていると聞く。このぶっ飛んだ名前はその芸名(というのか?)らしい。本名は知らない。二人とも某大学の一年生ということ。気さくな彼女とはすぐに仲良くなった。
 そして、一昨日の話になる。
「ねえ? うちのサークル来ない?」
「え? サークル入ってたの?」
「うん」
「何のサークル?」
「『ムーンリット同好会』」
「……何それ?」
「日本語に訳すと『月明かりのように陰でひっそりと社会を生きていく人のための集団』」
「で、本当は?」
「う~ん、説明しにくいんだよね、そこ」とか、いかにも困ったように言う。流石、声優。「実際に見に来るといいよ」
「そりゃそうだけど、ちょっとね……」
「大丈夫。話は通しておくから。きっと居心地がいいわ」
 という嘘を吐かれた。
 今現在、居心地は最高に悪い。これならまだ知らない人とバスで同席していた方がマシだ。
 特に、この十六恋はまったく月ノ静には興味がないらしかった。
「そういえば……」月ノ静は言う。沈黙し続けるのが辛かった。「ここは何のサークルなんですか?」
「え? 何? というか誰だっけ?」
「月ノ静です。で、ここは何のサークルです?」
「ああ、ここは『天使(あまつか)様支援同好会』なの」
 天使。
って誰?
「天使、さん?」
「そう。ほら、ここ」
 彼女は本棚に刺さっている名簿を出して見せてくれる。
 名簿の先頭に名前があった。
 天使姫花。
 『あまつか ひめか』とでも読むのか。
 しかし、冗談だったとは言え、和美ヶ原の説明とはまるで違う。それなら自分が入っても仕方ないと月ノ静は思う。そもそもこの天使さんを知らないのだから。
「この方は、その、一体……?」
 恐る恐る訊いてみる。天使原理主義的な人だったら命が危うい。
「うん、そのうち分かる」
 らしい。
 和美ヶ原がここを訪問することになっている。取り合えず、それを待つに限る。これは、お仕置きが必要だ。その時は、そんな暢気なことを考えていた。
 で、その声優娘は割りとすぐに登場してきたわけだが。
 早速、我が耳を疑うことになる。
 月ノ静はもう一度聞きなおす。
「明日?」
「そうよ。今週の土曜日は明日しかないわ」
 とやはり和美ヶ原は再び断言する。
「急な予定ね」
「決めるのは急でも、決まったのは急じゃあないの」
「で、どこ行くんだっけ?」
「私の爺ちゃんトコ。そこに皆──といっても四人だけだけど──でお邪魔するわけ。話は明々白々で簡潔。しんぷるに限りない」
 今のところ、この部室に三人いる。
 部屋にいるのは、月ノ静、十六恋、和美ヶ原。これはつまり、天使という人を含めた四人で行くという意味に果てしなく強く結びついている。
「大丈夫。話は通してあるから」
 最早、信憑性の欠片もない言葉を言う。
「しかも、私、このサークルの部外者になるわけでしょう?」
「それ関係ないでしょ」
「大いに関係あります。だって、ここ、天使さんの支援同好会なんでしょ? よく分かんないけど、私いても仕方ないじゃん」
「それはどうかな?」
「そうだよ」
「まあまあ、とにかく来てみるのがいいよ」とおどけて言う。「きっと悪い経験じゃないと思う」
 そういう問題でもない。
 とにかく、これが、今回の微妙でぐだぐだなことに巻き込まれることになった契機だとして、そうそう間違っていないイベントだった。

 和美ヶ原の祖父の屋敷は電車で、数十分程度で到着する。
 ここはそれぞれの家が離れていて、それなりに人気の少ない通りが並んでいた。つまり、各家の敷地が広い。要するに、そこそこ資産家が陣取っている地域らしい。
 駅からタクシー(用意されていたもの)で屋敷に到着する。これが昼過ぎのことだった。
 まずは大きな門があり、それなりに大きな庭が広がっている。西洋風のシンメトリーの建物がドカンと聳え立っていた。
 この日常からほんの少し外れた空間を使用人が案内してくれている。その後ろに十六恋、月ノ静、和美ヶ原が続いていた。そして、天使は最後尾だ。
 天使姫花。
 まず、今日のイベントは彼女と駅で会うことから始まった。
 今朝のことである。
「始めまして。天使姫花(あまつか プリンセスフラワー)と申します」
 ……え?
 なんだって?
「リカ先輩、おはようございます」と和美ヶ原は言う。
「ちょっと……?」と月ノ静は怪訝そうに和美ヶ原を見る。
「リカ先輩≒天使先輩。てんし→エンジェル→ラテン語でアンジェリカ→リカ」
「じゃなくて」月ノ静は小声で言う。「プリンセスフラワーって何?」
「下の名前。どうかしたの?」
 あだ名、ってことだよね、と月ノ静は一人苦しく納得を強いる。
 十六恋さんの卑弥華とややこしいからそう呼んでるんだよね、とそう解釈する。
 エンジェル・プリンセスフラワーじゃないところが妙にリアルだけど。
 煌びやかなウェディングドレスのようなものを着込んだちょっとアレな人。
 こうやって、ここを訪れた。
 そして、本日二度目のセンセーショナル。
それは入った直後に生じた。
 屋敷の玄関、その突き当たりの壁に、大体、五十メートル四方の壁画があったのだ。ついつい感嘆の声を漏らしてしまうほどの完成度である。ぐんっと広がる平地に、それ以上に寛大な月夜。美しく輝く星が散りばめられている。
「ねえ、来てよかったでしょ?」和美ヶ原は言う。「これ、『月の静かな晩に』っていう壁画なの。石に描いてんのよ」
 見事な満月が左上に輝いていた。
「うふふ」とわざとらしく和美ヶ原は笑う。「この絵、よぉ~く覚えておいてね」
その後、客間に通される。荷物を置き身軽になった。取り合えず、和美ヶ原の祖父との挨拶を終える。更に、和美ヶ原は散歩しようと言い出した。言われるがまま、四人は和美ヶ原に連れられて歩く。
 まずは、庭だった。
 庭は半円の形をしていて、その直径は館だ。それで、庭を大きく一周した後に、結局は例の巨大な壁画のところに舞い戻ってくる。玄関にはもう誰もいなかった。四人で壁画の目の前まで近寄る。
「あ、ホントだ。石に描かれてる」
 硝子が一枚あり、その向こう側に石があるように見える。硝子と壁画との間はほとんど隙間がない。
「これ、大っきんだよ」と言って、彼女は壁画の隣にある説明文を見せる。「石は一辺五十メートルの立方体。なんか、訳があってそんな形の石に描いたらしい。で、今もそのまま」
「ふうん」
「よく覚えといてね」
「何? あとでクイズでも出すの?」
「まあ、そんなとこよ」
 月ノ静は壁画から離れて、もう一度全体像を鑑賞する。
 平地、星空、満月。
 しっかり目に焼きついておこう。

 夕食を終え、各自、風呂を済ませる。
「ねえ、そろそろだと思うんだ」
 と和美ヶ原は嬉々として言う。
「何? そもそも誰だっけ?」と十六恋は言う。
「私は犀ノ川原十六硝子」平気で嘘を吐く娘だ。「あのね、あの絵、曰くつきなの」
「それは、どういう曰くですの?」天使は言う。
「それはですねぇ……夜な夜なあの満月が抜け出して、人々を襲うんですよ」
「で、本当は?」月ノ静は言う。
「まあ、それは見てのお楽しみ」
 彼女のいつものレトリックだった。


 『月の静かな晩に』。
 というタイトルの絵だったと思う。
 確かに、そういう意味では今回のこれもその題意を満たしているといえばそういえなくもない。
 ただし、月、そのものが消えていた。
「どう?」
 和美ヶ原は誇らしく言う。
「お月様が消えてるでしょ?」
 巨大壁画『月の静かな晩に』に描かれていた満月が消えていた。
 広がる平地は確かにその通り。はたまた星の輝く夜空もいつも通り。ただただフルムーンだけが絵から欠落していたのだ。満月の部分が漆黒の黒だった。
「え? ええ?」
 月ノ静はしばらく混乱する。
「どうやったの?」
「この絵ね、満月の夜には、月が消えるのよ」
「うそ……」
 確かに今日は、満月の夜だった。
 月ノ静は壁画に近寄る。
 確かに、硝子越しの壁画から満月が消えている。
「簡単な悪戯ね」とよく通った声が館をこだました。十六恋だ。「或いは、このトリックは魔法にみえるかもしれない。しかし、それだけにここには至って短絡としたカラクリが存在する。魔法は人間が生み出した科学の合わせ鏡なのよ」
「相変わらず、前置きが無駄に長いのね」
「でも、長い前置きは無駄じゃあないわ。例えば、携帯電話。このシステム、機能のメカニズムや理屈を完璧に理解している人間はどれだけいる? でもそんなものはこれの便利さとは隔離されている。例え、このマシンの中に妖精が住んでいてテレパシーをしているとしても、もしもそれが科学的に、つまり、常識的に疑わないものなら誰も不満を言わない。つまり、これは魔法性を持ち合わせているといえる」
「で?」
「これも同じことよ。ワタシたちは満月を消す程度の魔法は使える」
「といいますと?」
「これは壁画に見せたおおきなスクリーンだとしたら? そしたら、壁画から満月を抜き取るくらい造作もないことよ」
「でも……」月ノ静は言う。「これは確かに石に描かれてますよ? 近づいたら分かると思いますが、石独特の表面ですし、そもそも液晶画面でもこんな精度は無理です。光源は硝子に多少反射しますし」
「……それじゃあ、この壁画を除けて別の壁画を差し込んだの」
「壁画は巨大な岩だよん」と和美ヶ原はおどけて言う。「その設定は揺ぎ無いとする」
「こんなのは、どう?」と月ノ静は言う。「壁画と硝子の間に薄い壁画を差し込むの」
「よぉ~く思い出して。そんなの可能だっけ?」
 そう。
 そんなことは分かってる。
 壁画と硝子の間はほとんどなかった。
「でもさ、紙みたいに薄いのだったらどう?」
「無理。壁画と硝子の間に壁画は入らない、こう定義していいよ」
 とすれば。
 後は、硝子の前に壁画を置き、その前にもう一重、硝子を置くしかない。
 しかし、それでは玄関が狭くなってしまう。
 それとも、逆?
 本当は、月のない壁画は数メートル後ろにあって、その前に、月のある壁があって、そして、それを除けて、後ろのを前に持ってくる。
 ただし、これは巨大な壁画を移動させなくてはいけない。
 とすると、『この壁画は巨大である』という定義に反する。
「この壁画を動かすっていうのは無理?」
「無理。この壁画は地面から離してないよ」
 昼間見た絵は見間違い?
 それとも、硝子に反射した光源? いや、そんなはずはないか。
「そろそろ、わたくし、申し上げてもよろしいでしょうか?」
 天使はゆっくりと言う。
「ええ、プリンセスフラワー様。」
「答えはテレビでしょう?」
「スクリーンは無理だということになってますが……」
「televisionの語源はteleとvisionですわ。両者ともギリシャ語です。前者は『遠く離れた』、後者は『視野』という意味ですのよ」
 この前置きの長さは、十六恋に遺伝したに違いない。
「実はこの壁画、絵だけが石から離れているのです」
「どういう意味です?」
「光ファイバーをご存知ですの?」
「ええ、まあ」
 簡単に言うと、遠くの光をそのまま伝えるための管だ。細かな管が光を全反射させるようになっているという仕組み。
「それを石で実現したものがあります。『テレビ石』というもので、石で光ファイバーのように全反射する管を作り、同じ機能を果たします」
 それは知っている。
 例え、五センチほどの筒状のテレビ石であっても、文字の上に置けば、それが浮き上がって、上から見ると、筒の上に文字が書かれているように見える代物だ。
「実際は、壁画は遥か数メートルほど後方に設置されていますが、巨大なテレビ石によって、あたかも館に接しているかのように見せていたのです」
 壁画の絵を切り離していた、ということ。
「そして、壁画と硝子の間ではなく、テレビ石と壁画の隙間に満月の欠けた『月の静かな晩に』の絵を差し込むのです。これは紙メディアで構いませんわ。だって、テレビ石で映しますと、何でも石に描かれているように見えますもの」
 という話だった。
 壁画は動かしてないし、硝子と壁画の間に壁画も入れていない。
 和美ヶ原の出すところの定義にはまるで矛盾していない推理だった。
 そして、その後は言わずと知れている。
 ただひたすら、十六恋が天使を賛美し、和美ヶ原が完敗の白旗を揚げた。
 月ノ静も、静かにその光景を見守り、物語は幕を閉じる。


 後日、月ノ静は和美ヶ原と会ったときに一応こっそりと言っておいた。
「あれって、満月を上から黒で塗りつぶしたんでしょ?」
 テレビ石は密着させなければ、ぼやけて映ってしまう。壁画と石の隙間に何かを差し込むことは不可能だ。
 取り合えず、『天使支援同好会』なら、彼女に花を持たせなくてはいけない。皆が守ったルールなら、なおさらだ。
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テーマ:小説 - ジャンル:小説・文学

【2008/04/02 05:20】 | その他シリーズ | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
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