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密室コレクション
密室コレクション
 割と、やりたいことができた作品です。
 トリックは簡潔明白シンプル。
 すっきりスーマトな仕上がりですが、自文がごちゃごちゃしすぎてしまいました。
 前々考えていた『部屋を開けたら一瞬で気付くトリック』を実現できた気がします。
 部屋がたくさんある理由、鍵を開けない理由がすべて密室コレクションの個性に依存しているところが上手くできたかなと思います。まあ、あんまり出来のいいものではありませんが。
 実は同じタイトルで犯人当て形式のものがありますが、そちらは密室コレクションにする理由のないものとなってしまい駄作のようです。

以下本文です。

主な登場人物
  ●密室コレクションメンバー
    京塚幸助(きょうづか こうすけ)
    桜川笹子(さくらがわ ささこ)
    柿丸斉(かきまる ひとし)
    黒瀬愛華(くろせ あいか)
    相模城太郎(さがみ じょうたろう)
●オーディエンス
    莨谷めがみ(たばこだに めがみ)
    以下略

密室コレクション
水銀箱
 掛ければ開かず
 開ければ開(ひら)くドアの鍵
 取扱いにはご注意を

 そんな僕が言うことはやっぱりいつだって同じこと。
 結局は、こうなる。
 こうなる定め。
 こうなる下り。
 初めから分かっていたし、最初から覚悟していたこと。
 それだけに、僕ははっきり言ってみる。
「理屈の固まりなんだよね、この世は」
 これは最強無敵の屁理屈。
 逃げ口上で言い訳。
 言い分で言い逃れ。
 口実で詭弁で小理屈。
 これを発言し、主張して、説明したところで、何の進歩もないどころか、はたまた世界は何も変わらないけど。
 だけど、僕はこれが好き。
 だから、僕はもう少しだけ続きを喋ってみる。
「屁理屈だけど、聞いてみる?」
 通した理屈は、僕を楽しませるためだけの屁理屈。
 そんな屁理屈で畳みおられる事件はそもそも偏屈。
 そういう事件は、第一にして奇抜で型破り。
 鍵に拘るクラブ。
 密室を集める資産家。
 永久に開けられない鍵。
 こんな狂った条件が揃いきった鍵の城。
 どいつもこいつも狂ってるね。
 これじゃあ、僕がひどくまともになってしまう。
 まあ、狂気の中の唯一の正常こそ一番の狂気だけどね。
 そういうのならそれでも構わない。
 ただただ僕は特殊で特別。
「僕は、鍵を開けずにはいられないタイプでね」
 というふうなことがあったりして
 僕は誰も開けなかった鍵を
 鍵を使わずに
 理屈だけで
 開けてみます。




 僕らがクルージングボートに乗っていたのはだいたい三十分と少し。まあ、だいたいそんな程度で目的地の島に到着したわけになる。
 島っていうけど、規模はかなり小さい。どれくらいの大きさかは具体的には知らないけど、周りを歩いても四、五十分ほどで一周できるそんな感じ。
 この島はね、京塚さんの別荘。なんでもね、京塚さんはかなりの資産家らしく、この小さな島を買い取っちゃったんだそうだ。
 島に到着してから少し車で動くことになる。でもこれは五分くらいだから無視してもいいくらい微小で微々たる移動。
 それでもって到着するのは、鍵のお城。
 そこに集うのが『密室コレクション』だ。
 そう。そもそもこの集団の目的は、森林浴のハイキングでもないし、体力作りのワンダーフォーゲルでもなければ、そもそも、外出することですらもない。
 彼らの目的は随一にして単純かつ明白。
それすなわち『鍵』なんだよね。
『密室コレクション』というのはクラブの名前。鍵をこよなく愛する集団。日夜集まって鍵を閉めたり開けたりして楽しむ会。鍵を全人類のハイカルチャーと見定めるそんなコミュニティー。
正式メンバーは五人。彼らは冬休みを利用して、会長の京塚さんの別荘に研修旅行に行くことになった。そこに一般人の僕らが巻き込まれたっていう話。
巻き込まれたのは、僕と後輩の莨谷めがみ(以下、僕は『メガ』と呼ぶ)っていうコの二人。巻き込まれる因果を掘り下げていくと、思い当たる節がなくもない。
密室コレクションのメンバーの一人、相模城太郎と僕ら二人は、幼い頃、同じ施設で育った所謂、幼馴染だ。
相模は僕の一つ下の後輩。メガと同い年になる。
一周間ほど前、彼は僕に電話してきた。
「先輩、一緒に鍵を閉めたり開けたりしませんか?」
「嫌」
「なんと今回は研修旅行ですよ」
「行かない」
「見たこともない鍵をいっぱい見れますよ」
「電話、切るよ」
「では、一週間後に迎えに行きますね」
 というふうなやり取りがあって、何をどう、とち狂ったのか、相模は僕の返事が痛快なOKサインに聞こえたらしい。
 それで五人揃って迎えに来られるものだから、断るに断れない。話を聞くとかなり遠回りをしてここまでいらしたらしい。止む無く、僕は参加する。
 まあ、同様なことがメガにも起こっていたらしく、その後、メガを迎えに行き、かくして七人は旅行に出発した。
 そして、今に至るわけ。
 あ、そうそう、鍵の城の説明がまだだったね。
 その別荘っていうのがね、京塚さんの自慢の館らしくて、初めに館の見取り図を見せてもらった。
 本館と別館があり、細い廊下で繋がっている。それで、別館を上から見ると、まさに鍵の形をしているわけ。だから鍵の城。全体を見ると鍵にキーホルダーがくっついたような形なんだ。要するに、鍵が好きなんだね。
 車が到着する。七人が降りて、早速、会長の京塚さんは口を開く。
「ようこそ、私の館へ。見せたい鍵がいっぱいあるんだ」
 京塚幸助。
 よく知らないけど、とってもお金持ち。相模の話によると、企業をかかげていて、本部はアメリカにあるらしい。趣味は鍵集め。また密室コレクションの会長にして創立者。
 歳は四〇代だろうね。だけど背筋は若者のようにしゃんと伸びていて、動きもきびきびしている。頭には白髪が入り混じり、細身で角ばった体型。深緑のセーターと地味な綿製のズボンが似合っている。
「ええ。楽しみにさせてもらってますよ」
 と答えるのは、桜川笹子という女の人。僕より年上だね。ああ、因みに僕は今、大学二年生ね。
 で、桜川さんだけど、雰囲気はOLっていうところか。ダイヤモンドチェックのオーバーブラウスにコートを着こんでいる。髪は後ろで結い、長いポニーテル。細くて穏やかな眼。眼鏡でもかければキャリアウーマンの代名詞。職業は不明。相模から聞いていない。
 それで、その後ろにいるのが、黒瀬愛華という女の子。相模曰く、僕と同い年。少し背が低く、若干垂れ目。なんか友達にいそうな感じ。そんな冗談を言おうかと思ったけど、ホントにそうだったら気まずくなるので、今は放置。左右の前髪がくるっと内側に丸くなっているのが印象的。
 あと、メンバーなのは柿丸斉。大学院生だって。牛乳瓶の底のように厚い黒ぶちの眼鏡をかけていて、色黒で波状毛。まだ喋っているところを見てない。ボートの中でもずっと本を読んでいた。
 そして、相模城太郎ね。喋らなければ好印象の青年だね。でも、四六時中、鍵のことしか考えてないちょっとアレな人。基本、関わらない方がいい人。というか、あの施設の人ってだいたいそうなんだけどね。
 捕捉として、メガも。この中で一番小柄。理系のくせして頭の中には無駄な知識がいっぱい入ってる。あ、理系だからか。あまり知られてないけどパズルが得意。誰に対しても敬語使う。
 それに僕を入れて、この七人が今、館の庭を通っている。因みに、僕とメガは最後尾。
「先輩」メガは近づいてきて小声で言う。「私、もう鍵の話には耐えられませんよ」
 因みに因みに、ボート中でも車の中でもずっと話題は鍵オンリー。
「しかも、こんな無人島に連れてこられて。私たち、無事に帰れるのでしょうか?」と未発達な発音で続ける。
「まあ、ここでは鍵が三種の神器より大事なアイテム。鍵を冒涜することがなければ、命は取られまい」
 と不安な二人。
 さっそく、館の扉で立ち止まって、全員(二名除く)が扉の鍵を五分ほど鑑賞。
 全員(二名除く)が心行くまで鍵を開けたり閉めたりする。そして、全員(二名除く)が扉の鍵を撮影。
「先輩」相模が言う。「鍵と一緒に写真撮ってあげましょうか?」
「いや、魂が抜かれると大変だから僕はいいよ」
「では、莨谷さんは?」
「幽霊が写ったら困るから、私もいいです……」
「二人とも怖がりですね」相模は爽やかな笑みを浮かべる。苦労を知らない奴だ。「いいですか、この鍵はロータリーディスクシリンダー錠と言ってですね、ロータリディスクタンブラーを利用した画期的な鍵なんです。タンブラーの軸には……」とかなんとか。
 ここで生き残るための誓い。
 一、説明は右から左。
 一、鍵の痛みは己の痛み。
 一、鍵について語るべからず。
 一、鍵は忘れた頃にやってくる。
 一、欲しがりません、勝つまでは。
 軽い気持ちが大惨事に繋がりますので、ご注意を。
「では、中に入りましょう」
という京塚さんの号令がかかった。
僕らは館の本館に入る。ステージ一クリア。
「扉だけで十分弱も潰れましたよ」メガは泣きそうな顔で言う。でも、僕にはどうしようもない。
 入ると中央に大きな階段がある。普通、壁には大きな絵が飾られているものだけど、あるのはやっぱり鍵のコレクション。左右にはガラスケースに鍵たちが飾られています。
「ああ、凄いですね、先輩」と相模。
「ああ、凄いね」
 そして、また全員(二名除く)が鍵の鑑賞を始める。
 三十分ほどで二階に行く。
 二階にはただ長い廊下があり、その左右に部屋がずらりと並んでいた。
「こんなに部屋があるんですね」とメガが言う。
「ああ、この部屋は空なんだ」京塚さんは反応する。
「空、ですか?」
「ドアに鍵が付いている。ただ鍵を飾るための部屋なんだよ」
「…………」
 一階みたいにガラスケースに飾ったらいいのにね。
 どうやら金は腐るほどあるらしい。
「凄い! これは、マグネットタンブラーシリンダー!」相模は騒ぐ。
「やっぱり、シンプルなのが奇麗ですね」と黒瀬は横から言う。
「マグネットの配列が特殊ね。これはどうやってるのかしら」
「以前、マグネットとピンのシリンダーのハイブリッドを見たことがありますが……こんなに小さなものは初めてですね」
「暇だね、メガ」
「暇ですね」
 次の部屋。
「ああっ! ウォード錠だ!」
「アンティークですね」
「まあ、御洒落な鍵」
「古代ローマ時代を忠実に再現してますね」
「僕、南京錠好きなんですよ」
「暇だね」
「暇ですね」
 次の部屋。
「おぉっ! ケースロック!」
「これが、デッドボルトなんですか……」
「おや、ケースロックは初めてですか?」
「暇だね」
「暇です」
 次。
「ほう! これは面付箱錠」
「まあ、定番と言いますか」
「暇ですね」
「まあね」
 次。
「成程。これは……」以下略。
 こんなことがいっぱいあって、三十分が過ぎ去る。
「三階に行きましょうか」
 同様にして三十分が無駄に過ぎていく。
 鍵って怖い。
「それでは、いよいよ別館に移りましょう」
 僕らはまた一階に戻る。階段の後ろに扉があり(ここで五分)、その向こうが本館と別館を繋ぐアーケード付きの廊下になっている。突き当たりが別館の入口だ(ここでも五分)。
 入るとまず広いスペースに出る。もう分かってると思うけど、壁には鍵が展示していて(ここで三十分)、左右に扉がある。見取り図を見れば分かることだけど、左は通路で右がトイレや鍵の管理室に繋がる。
 で、僕らは右の鍵が飾ってある通路を通って(ここで五分)、そして、別館一番広い部屋に出る。中央に円形のテーブルがあり、壁、天井が例の物の展示でいっぱい。
「素晴らしいですね」と桜川は言う。「この館にある鍵は、見ごたえのあるものばかりです」
「喜んでいただいて幸いです」
「ああ、あれはバイオメトリックス錠です、先輩」
「いちいち僕に知らせなくていいから」
 黒瀬さんも柿丸さんも無言で、鍵を鑑賞している。
 人間って怖い。
「そろそろ鍵を見せ合いしませんか?」という桜川さんの提案で、皆、テーブルにつく。
 というか、皆さん、大きな荷物を持っていらっしゃると思ったら、中身は鍵ですか。そうだったんですか。
 今週の友達っぽい人ナンバーワンの黒瀬さんまでそんなことしているとなんかショック。
 相模も見かけは高青年なのに。鍵が彼を変えてしまったんだ。
 柿丸さんだって、真面目な院生にしか見えないのに。
 僕とメガはテーブルの端でそんなことを話していた。
 そして、軽く二時間が経過する。
 そろそろ死んじゃいそうです。
「ところで皆さん」と京塚さんは言う。「この別館にはとっておきの部屋があります」
 この部屋に来るのに四十五分ほど消費して、この部屋で二時間も過ぎ去った今、そんな話はあまりに残酷。エクストラステージですか。
「皆さん、見取り図を思い出していただければ分かると思いますが、この部屋には奥につながる扉があります」
 ああ、あの扉で五分潰れるんだろうね。
「それから部屋がいくつも連なって、最後の部屋にはとっておきの鍵があります」
 そうそう。
 この館は鍵の形をしていてね、それで鍵の差し込み部分は部屋がいくつも連なっている。その一番奥がとっておきの部屋らしい。
「では、私は鍵を取ってきます」
 と言って、京塚さんは隣の部屋に行く。広いスペースの隣には鍵を保管している倉庫があるって見取り図にあったはず。
 すぐに戻ってくる京塚さん。
彼は鍵を二つを持ってきた。
「あれ」桜川さんは言う。「鍵は二つなんですね」
「ええ。一番奥の部屋の鍵だけ別にしてるんですよ」
 金色の鍵と銀色の鍵。
 まあ、普通の鍵は銀色なんだけどね。ただし、どれも特大サイズ。金の鍵には大きな四角柱のプレートがついている。ホテルの鍵みたいにね。
「一番奥の部屋に行くまでの鍵はすべて銀色の鍵です。最後の部屋だけ金色の鍵を使います」
「では、早速、見に行きましょう」と相模は言う。
 かくして、僕たちは奥の扉に向かった。
 扉を開けると何もない部屋があった。
 大して広くない。普通の大学生の下宿部屋くらい。七畳くらいかな。ただ家具とかが一切ないから広く見えてるのかもしれない。
 あるのは蛍光灯くらいかな。この蛍光灯はドアを開けると自動的に点くらしい。因みに窓もありません。
 ただし、この部屋にはドアが二つある。
 そう、付きあたりのドアが次につながっている部屋のドアなんだよね。
 一体、この構造にどんな意味があるのかなんて考えたってしかたない。ここはこういう場所なんだよ。ただただ鍵を飾るためのドアが、そして部屋があればいい。ただそれだけの、たったそれだけの館。鍵のためのアトラクション。だってここは密室コレクションの別荘なんだから。いくら密室があったって不思議じゃあない。
 で、例によって、一部屋、一部屋、じっくり鍵を鑑賞していく。
そして、とうとう最後の部屋のドアまで来ます。長い道のりだったね。
 最後の部屋のドアには大きな絵が掛けられている。えっとね、ドアに御洒落なピンは刺さっていて、そこに紐で絵が掛っているわけ。
「次が最後の部屋ですよ、皆さん」
 と京塚さんが言う。
 まあ、絵が飾ってあるのはそういう意味だろう。因みに、それ以外は今までの部屋と全く。
「では、開けます」
 こうして、最後の部屋は金色の鍵で開けられた。
 予想通りと言うかなんと言うか、これでもかってくらいの鍵が飾られている部屋。あの、凄い商品密度の高い宝石店だと思ってくれたらいい感じかな。
「はあ……」と相模は感嘆のため息を出した。
 余程、凄い鍵が飾られているらしい。うん、まあ確かに奇麗だけどさ。
「ああ、あれがマリー・アントワネットが使っていたかもしれないという鍵ですか……」
 僕のポケットには、確実に僕が使っている鍵があるんだけど。
「これって、○○ですよね?」
 ↑ここで自主規制が入ります。
 あまりに刺激的な評価だったため、控えさせてもらいます。
「ええ、○○が○○○で、×××ですから」
「ええっ!? ×××なんですかっ!?」
「わあぁ……私、×なのって初めてです……」
 あ、もういいや。
 ここで一旦、カット。

 続き。
 三時間程、この部屋にいました。
 別に変ったことはないね。ただ単に皆で鍵を見ていただけ。
「そろそろ夕飯にしませんか?」
と京塚さん、ナイスカリスマ。
「もう少し駄目ですか?」と相模。黙れ。
「また明日、見にくればいいでしょう」
「それもそうですね。先輩、明日、一緒に来ましょう」
「だから、そこで僕を誘うな」
 そこで、また連なる部屋を通って行く。
 逐一、鍵を閉めているらしい。というか、鍵閉めないと気が済まないのね、はいはい。
 そして、また広いスペースに出る。
 食事は本館で食べるらしいので、本館に帰る。この屋敷には執事が一人いるらしく、彼が用意してくれたそうだ。
 本館はやたら鍵を飾るためだけの密室が多かったが、生活するための部屋は一階の階段の裏にあった。人間の住むところは階段の下か……。
 食事の後は、それぞれ与えられた部屋へ行く。相模と僕が相部屋になったけど、メガが相模と代わってくれた。
 そんなこんなで午後七時。
 それで、今はメガと二人で部屋にいる。
「やっと鍵から解放されましたね」
相変わらずくすぐったい口調でメガは言った。
「一生分の施錠を済ませた気がする。もう当分、鍵を閉めなくていいや」
「当面、鍵を見たくないです……」
「うん。鍵、嫌い」
「もう鍵の話はやめましょう」
 そう言って、彼女は窓の縁に座る。
「奇麗な島ですね」
「その気になれば」
「私もこういう島を別荘に欲しいです」
「言われてみれば」
「あ、なんか丁度、風が止んだみたいです。ロマンティックですね」
「海上の気温と陸上の気温が同じになったからだよね」
「あそこで波が大きく弾けるみたいですよ。奇麗ですね」
「波が弾けるのは水の粒子が回転していて、その直径と海の深さが……」
「分かってますよ。いちいち説明しないでください。感動がなくなります」
「面白い話だと思ったんだけど」
「面白いですけど、いつもそんなのばっかりじゃ生きていけませんよ。考えない才能も必要です」
「成程。『言わぬが花』ってことね」
「そうとも言います」
「そう言うらしいね」
「先輩は、分らないことがあった方がいいとは思いませんか?」
「思うか思わないかはまだ考えていない。そして、分らないことがあるからそんなことを考える発想がない」
「私は、分らないことがあった方がいいなって時々思います。全部分かってしまって、唯一の答えが敷かれていたってつまらないじゃないですか?」
「つまらないかもね。知らないけど」
「あと、答えがあっても、それが一つしかないものは好きじゃありません。答えが一つしかない問題は解決してしまうと終わりです」
「絶妙のミーティング、言うに事欠く幻と大歓迎」
「は?」
「さっきのがどういう意味か、宿題ね」
「ははあ……」
「そもそも何を問題として見定めるかが抜群の才能とセンスの固まり。第一に、生き方と問題の相互関係を位置づけるときに人間は最大の哲学と面白さに巡り合う。答えと選択肢はまだまだずっと先の話。もしも、つまらないというのなら、それは篩の目が壊れ始めた危険信号だね」
「成程。参考になります」
「そして、すべてに答えがあるとも限らない」
「そうですね」
「すべてに答えをリクエストするとき、分かることと分からないことが生まれる。そもそもそんなものなんてどこにもない。あるのは、人間が作る結構どうでもいい世界だけ。真実、常識は飾りの一環。大事なのは達成感と充実感。それが後悔しないための条件だね」
 と僕は、壁を見つめて言う。
 誰に言うでもないそんなセリフ。
「まあ、屁理屈なんだけどね」
「また、屁理屈ですか」
「そう、屁理屈」
「ふふふ、相変わらずですね。皆、あの頃と変わりませんね。相模君だって鍵鍵って全然変わっていませんし」
「うん。昔から南京錠が好きって言ってたしね。あれ、鍵の話になってる」
「本当ですね。話を戻して来週の週末ですけど……」
「そんな話してたっけ?」
「してました。昔」
「昔話か」
「昔話です」
「むかしむかしあるところに」
「来週はどこかに出かけませんか? というか、本当は今日、出かけたかったんですが、こんな鍵だらけの御屋敷に来てしまいました。そもそも鍵を飾るために密室の部屋を用意するってのはおかしいですよ」
「別の理由があったりして。なんだか、また鍵の話になってる」
「ええ、気をつけましょう」
「これから先に鍵って言ったらペナルティ」
「どんなですか?」
「ルート五を五十五桁覚える」
「というかそんなものの話したくないですし」
「折角、相模もいないし」
「一種の天国ですね」
「いや、これが普通」
「鍵でも閉めておきましょうか」
「ペナルティ」
「五十五桁くらい覚えてますって」
「まあね」


 結構、最悪な起き方をする朝。
 誰に起こされたかというと、鍵マニアの後輩。つまり相模に起こされる。
「先輩。起きてます?」
 とドアを叩く音で起きる。
 メガは本当に鍵を閉めました。
 その後、暫く話して寝たわけで、まあ寝る時には鍵を閉めるのは普通だよね。だからこれはいたって普通の状況だ。
 時刻は六時過ぎ。
 朝、早っ。
「要件を述べよ。但し、ピーって合図の後に」
「ちゃんと合図してくださいよ?」
「無駄に冴えてるね」
「そんなことより鍵を開けてください」
「君、ピッキングぐらい得意でしょ?」
「そんなの鍵への冒涜ですよ。先輩も、今後、僕の目の前でピッキングをするのは止めてください」
「そんなシチュが今後、あるとは思えないけどね」
 というか、結構、今後会いたくない。
 僕は昔のよしみで鍵を開けてやる。
「おはようございます」
「で、何? 鍵なら見に行かないよ。ていうかもういいよ。ばいばい。顔を見たくなくなった」
「先輩、会長を見ました?」
「フェニックス?」
「プレジデントですよ。会長の姿が見えないんです」
「へえ。じゃあね」
「あ、閉めないで下さい。これは大事な問題なんです」
「どうしたんですか?」とメガの声が後ろから聞こえてくる。
「今朝から会長を探しているんですが、どこにもいないんです」
 というか、今が今朝じゃないのか?
「いやですね。昨日の部屋に行こうと思って鍵を借りようと思ったんですが、いないんです。これは重大ですよ。死活問題です」
「別に死んでもいいし」
「取り敢えず、先輩も探してください。今、皆探してるんですよ」
 皆、見に行く気だったんだ。
「庭でラジオ体操でもしてるんじゃない?」
「僕もそれを一番に疑ったんですが……」
 なんでそれを一番に疑う?
「執事の人も探してるんですよ」
「つまり、イレギュラーだってことか」
「先輩」とメガが後ろから言う。「いないっていうなら、それはそれで問題です。少し御付き合いしません?」
 別にどうでもいいけど、メガがそう言うのなら仕方がない。
 二度寝してから探そうかな。

 まあ、結局は探し始めたわけだけど。
 というか、僕が探す頃には、もう探し尽した感じ。島中探したらしいが、どこにもいないのだと言う。
 今、皆、本館の一階にいる。
「どこに行かれたんでしょう?」とメガが言う。
「ややもすると」僕は言う。相模に「一つだけ調べてない部屋があるかもそれないね」
「ありますね」と相模は言う。
「一番奥の部屋に行くために、京塚さんを探してたんだよね。鍵は別館の倉庫に保管されていて、それでもって誰でも手に入れることができる。京塚さんを探し始めた理由が、鍵を借りる前に主人に声を掛けておくというのでないなら、ただただ例の部屋に行くことができなかったからということにならなくもない」
「よく分りませんが」
「分からなくていいよ。つまり」
「つまり、別館の一番奥の部屋の鍵がないんです。だからその部屋だけ調べてません」と相模は断言した。
「じゃあ、そこに京塚さんがいる。どうしてそう考えない?」
「だって、ドアを叩いても返事がないんですよ」
「じゃあ、返事をしないか、できないか。揺るぎないね」
 四の五の言わずに見に行きましょう。
 こうして、僕らは別館に移動する。
 そもそもこの別館は人間の住むところなんて一つとしてない。
鍵の為の城。
鍵の眠る城。
密室を飾る所。
人間の一人や二人閉じ込められても不思議じゃあないね。
 別館の倉庫に行く。確かに、金色の鍵、つまり、一番奥の部屋の鍵がない。僕らは銀色の鍵を取る。
 そして、またまた連なった部屋を通って行く。順々に鍵の開閉を繰り返す。
 それで、大きな絵を飾っているドアに辿り着いた。
 まず、相模がドアノブをガチャガチャさせる。
「ほら。鍵が掛っているんですよ」
「掛ってるね」と僕は同意する。
「会長! 会長! いるなら返事してくださいよ!」
 呼べど叫べど返事無し。
「先輩は、会長が部屋の中にいるって言うんですよね」
「この部屋の中にはいそうだね」
 と僕は少し笑みを浮かべる。
 ああ、なんだか無駄に理屈っぽいな。
 それではそれでは
 取り敢えず、ドアの前にしゃがみ込んでみましょう。
「先輩?」
「どの部屋のドアにも、床とドアの間に隙間がある。その隙間は一センチとしてよい」
「はあ?」
「見逃しやすい細かな点こそ何よりも重要だと言った大探偵が昔いたそうだね。賛否意見はさておき、そもそもコレを見逃すのは感心しないけどね」
 ドアと床の隙間。
 赤い赤い血が少し部屋からはみ出ているそんな感じ。
 いや、はみ出ているというより、隙間から覗けるって感じだね。
「血、ですか!?」
「中にいそうでしょ?」
 火のない所に煙はたたない。
 人がいなければ血は流れない。
「それで、もう少し覗いてみようか。ねえ相模」
「僕が覗くんですか?」
「無駄に冴えてるね」
「覗きは趣味じゃないですけどね」
 と真面目に答える。
なんか、彼が言うと、本当に覗きを趣味の一種と考えてそうで怖い。
まあまあ
取り敢えず、変な後輩が今、ドアの隙間から覗きをしています。
 それで、彼は驚いて顔を上げる。
「先輩、大変です!」
「何?」
「よく見えません」
 代わりに桜川さんが覗くことになる。
「皆さん、大変なことになってます」
「といいますと?」
「恐らく、会長はお亡くなりになってます」
 まあ、そうなんだろうね。
「重大なことは、ここからです」
 らしいです。
「会長の手には、金色の鍵がありました。つまり、これは密室殺人なんです」
 鍵には大きなプレートが付いているから、一センチの隙間じゃあ通すことはできないし、そもそも覗いてみたら分かるけど、会長は鍵を軽く握って死んでいる。仮にドアの隙間に通ったところで全く解決しないね。
 桜川さんの話によると、そもそも視野は相当狭いらしい。で、その狭い視野いっぱいに会長の死体が見えたらしい。それでもって、手には鍵を握っている。ドアから五十センチくらい離れた場所。それ以外は、つまり、死体以外は血塗れな床しか見えなかったという。
「取り敢えず」メガは言う。「ドアを壊して中の様子を確認しましょう」
 一瞬、空気が固まる。
 え?
 何? この空気?
「莨谷さんっ!」相模はメガの両肩を握って言う。「なんてことを言うんですかっ!?」
「は? 私、何か……」
「ああっ! なんてことだ! ドアを壊す=鍵を壊すことじゃないですかッッ!!」
 つまり
 鍵を壊したくないんだね。
 要するに
 馬鹿なんだね。
「いや、ドアだけ壊したら……」とメガ。
「いえいえ、そう言う問題ではありません」と桜川さんも同意する。「鍵を使わずに密室を壊すことは許されませんよ」
「そうなの?」と僕は何となく黒瀬さんにふる。
「勿論ですよ。鍵に対する冒瀆ですね」
 そうですね。
 そうだったんですね。
 そういえば、ここは『密室コレクション』だったっけ。
「で、どうするの?」
「まず、警察に連絡しましょう」とメガ。常識人は彼女だけだ。
「但し、ここは圏外だけどね」
 ここで説明。
 ここへ来る時に使ったボートは今、この島にありません。明日になったら迎えに来てくれるという話。
 だから、そのとき、警察に連絡することになる。
「まあ、それはいいにして、どうするの?」
「実は私、警察をやっています」と桜川さんは言う。「皆さん、落ち着いてください。取り敢えず、現場は保存します」
 いろんな意味でね。
「警察が来るまで、皆さんで固まって過ごしましょう」
 という話。
 そんな話になりました。
 だから、また繋がった部屋を順々に通って行く。
それで、広いスペースに出たところで、メガは小声で言った。
「参考までに訊いておきますが、先輩。分っちゃいました?」
「あれ? 分かってないの? というか、一つ少なかったでしょ?」
「先輩はどうするんですか? いろいろと」
「安全主義で行くよ」
「実は私、まだよく分かってないんですよ。せめて、現場に入れさせてもらえば分かるかもしれませんが」
「分かるね。間違いなく分かるだろうね」
 僕はそう答えるけど、もうメガは返事しない。思考モードに入ったらしい。こうなったら結構、上の空。彼女は何かとのめり込むタイプだからね。
 となると、暇になる。
 僕も何か考え事しないとね。




 えっとね。
 ここで事件の詳細を入れとくね。
 あれから皆で少し話合って、簡単に纏めたんだよね。
 まず、皆アリバイなし。
 相部屋は、僕とメガ。桜川さんと黒瀬さん。相模と柿丸さん。
 個人データ。桜川さんが警察の人。黒瀬さんは大学生。柿丸さんは院生。なんか歴史を研究していて、鍵の歴史を研究していたそうです。そう聞くと真面目だな、このクラブも。
 後、いろいろと書いときます。

「あ、見てください!」と相模は急に窓に駆け寄る。
「助けの船でも来たんですか?」とメガ。
「この窓の鍵、素晴らしいアートロックですよ」
 なんで彼が殺されなかったんだろうね?

「では、皆で、別館の広いスペースで過ごすっていうのはどうでしょうか?」とカリスマ桜川。
「……すみません。殺人現場の近くっていうのはどうも……」と黒瀬さん。やっぱり彼女が一番まともだなあ。
「そうですね。それでは本館の広い部屋に移動しましょう」
 ということがあって、僕らは本館で固まって過ごすことになった。ここ、知っといてね。

「しかし、会長が亡くなるとは……」
「彼は鍵に帰って行ったんでしょう」
 どこ、そこ?
「死人に鍵無しって言うし」
 言わないって。
 しかも、それどういう意味?

 まあ、そんなことがありまして
 取り敢えず、時間は刻々と過ぎていきます。
 密室は開けられることもなく。


「先輩は、自己満足以外の満足はあると思いますか?」
「あるだろうね。満足は心的状態だけを表すだけではないはず」
「そうですね。数式が成立する時や、条件などにおいて、機能が十分に果たしている時とかもいいますね。でも、自分の思い通りになって、文句の付けようがなくなったことを言うとき、すべてが自己満足な気がするんです」
「完結には自己完結。判断には自己判断。これは客観ではなく主観だ」
「ですね。自分だけで満足してしまうってことです」
「これも一種のパラドクスかもね。人間は想像以上に主観的な生き物である時がある」
 メガは黙って続きを待つ。
「メタって分かるよね? 高次元的だってこと。これを区別すると、いささかおかしな言葉が生まれることがある」
「つまり、満足と自己満足は違うってことですか?」
「同じ。だけど、区別しているだけ。区別するために言葉が違う。同じことだけど、違うことを表す言葉。だから違う言葉。同じこと指して違うことをいうための違う言葉」
「本質的には同じなんですね。その区別は『高次元性』ってことですか?」
「今一つ。区別は高次元的な違いなだけ。例えば」
 僕は例え話をし始める。
「例えば、ある星の人。暇潰しに地球を侵略。遊びで地球を征服して、何となく植民星。気分で支配下に置き、ノリで自分の星人を置く込み、気がつけば、自分たちの住みよい環境に。こうして、彼は満足する。満足したとする。そういう例え話」
「いぐざんぷる」
「でもでも。実は彼の星では、星税があるとする。スタータックス。星の個数×3.14シャウィ。シャウィはお金の単位。それで彼は今まで、難なく生活できていたものを、新たな星を所有したおかげで生活が困難。彼の家族はいい迷惑。ならば、初めの満足なんて、所詮は自己満足。結局は自己満足なんだよね」
「ですけど」
「だけど、『満足』も『自己満足』もその対象は、そもそも『星を所有する』ことだ。違わないね。同じだよ。同じことを指している」
「つまり、『自己満足』は他人の評価なんですか?」
「そんな時もありうる。でもでも、一万年と二千年後、その四百九十五年後に、彼もいよいよ自分の『満足』が酷く無駄なことに気が付くそんな日。やっぱり彼だって確信せざるを負えないそんな時。結局、彼は『あの時は、自己満足だったんだ』とそう思うかもしれない」
「取りも直さず」
「取りも直さず、とどのつまり、そもそも自己だけの『満足』を自己だけの満足だと思った瞬間に『自己満足』が生まれる」
「成程」
「という屁理屈もあったりなかったり」
「ところで先輩」
「何」
「どうして、こんな所でそんな理屈っぽい話をしてるんですか?」
「さあね」
 ここは別館。
 そして奥の部屋の手前の部屋。
 つまり、絵の飾ったドアの前。
 それでいて時刻は夜中の零時。
 壁に凭れて、座って二人で話。
 この部屋には二人しかいない。
「この話はメガがふったんでしょ?」
「そもそも、先輩がここに行こうって言ったんじゃないですか?」
「だからこれは二人の責任だ。喧嘩両成敗」
「結構、意味が違います」
「じゃあ、今度は『喧嘩は両成敗』。賛否についてディスカッション。ポレミカルトーク。ロジカルアバンチュール」
「喧嘩しますよ」
「そもそも喧嘩とは? Defを今ここで顕わに」
「ユダヤ教では……」
 と、そんなところで、ドアが開く。
 開いたドアは勿論、絵の掛ってない方のドア。
 つまり、誰かが入って来たってことだね。
 それで、入ってきたのは、黒瀬さんだった。
「あれ?」
 彼女は驚く。結構、オーバーリアクションな人だ。
「こんばんは。知ってました? 僕たち、同い年らしいですよ」
「はあ」彼女はおろおろと進んでくる。「どうして、こんな所に、こんな時間に……」
「安全主義ですから」僕は続ける。「そもそも貴女もどうして?」
「私は、その、本当に会長がお亡くなりになったかどうか……まだ信じられなくて……」
「だったら、自分の眼で確かめることでしょう」
「ええ。あ、お節介かもしれませんけど、ひょっとしたら、私たち以外の殺人犯が近くにいるかもしれませんから、部屋に戻った方がいいですよ」
「ここが安全なんですよ」
 僕は言う。
そして、立ちあがる。
メガも立ち上がった。
「なんたって、犯人はズラし直しに来るからね。来なければ来なくていいし」
「犯人? えっと、貴方はもう、事件を解いてるんですか?」
「どうだろうね?」
 どうでもよかった。
 本当にどうでもいいのに。
 こんな事件なんてどうなろうと知ったことじゃあないのに。
 些細で、ささやかで、無関係で
 無干渉で、無感情で、末端だったのに
 だけど、こうやって尋ねられたら仕方ない。
 こんなこと、し始めたら切りがないのに。
 そんなこと、拘り出したら終わらないのに。
 解かない謎も残したいし
 開かない扉もあってもいい。
 但し、僕は関与しない、ということで
 僕は第三者ですらもないという設定で
 それなら僕は密室だって集めてやる。
 理屈を通す必要なんてないのにね。
 でも、ここまで来ると下がれない。
 こうなってくると、後には引けない。
 理屈を通す事ばかりやってきた人生。
 説明し、分析し、筋を通して生きてきた人間。
 正直、彼女が来た時の感想は───
           ───来なくていいのに。
 すべてを幅広く、かつ自分の意見さえも打ち砕く、唯識紛いの自己満足を振りかざす、つまりは屁理屈ばかりの駄々を捏ねる僕。
 そういう僕がこんな状況に置かれたら、やっぱり言うしかない。
 そんな僕が言うことはやっぱりいつだって同じこと。
 結局は、こうなる。
 こうなる定め。
 こうなる下り。
 初めから分かっていたし、最初から覚悟していたこと。
 それだけに、僕ははっきり言ってみる。
「理屈の固まりなんだよね、この世は」
 これは最強無敵の屁理屈。
 逃げ口上で言い訳。
 言い分で言い逃れ。
 口実で詭弁で小理屈。
 これを発言し、主張して、説明したところで、何の進歩もないどころか、はたまた世界は何も変わらないけど。
 だけど、僕はこれが好き。
 だから、僕はもう少しだけ続きを喋ってみる。
「屁理屈だけど、聞いてみる?」
 通した理屈は、僕を楽しませるためだけの屁理屈。
 そんな屁理屈で畳みおられる事件はそもそも偏屈。
 そういう事件は、第一にして奇抜で型破り。
 鍵に拘るクラブ。
 密室を集める資産家。
 永久に開けられない鍵。
 こんな狂った条件が揃いきった鍵の城。
 どいつもこいつも狂ってるね。
 これじゃあ、僕がひどくまともになってしまう。
 まあ、狂気の中の唯一の正常こそ一番の狂気だけどね。
 そういうのならそれでも構わない。
 ただただ僕は特殊で特別。
「僕は、鍵を開けずにはいられないタイプでね」
 というふうなことがあったりして
 僕は誰も開けなかった鍵を
 鍵を使わずに
 理屈だけで
 開けてみます。
 とんだ理屈だよね。
「あまり多くを期待しないことだね。幻滅は真実の落とし子だ。感動と感激は現実の向こう側にある」
「では、訊きますが先輩。どうやって密室にしたんです?」
「愚問だね。どうやって、密室にしたか? 答えは唯一にして単純でありながらも基本的で簡潔かつ明々白々のトリビアル。鍵を掛けたから。ドアの鍵で、ドアに鍵を掛けたから」
「それはそうですけど、その金色の鍵は現場の中にあるんですよ? どうやって、鍵を部屋に中の、京塚さんの手に握らせるんですか?」
「部屋の中に入って、握らせる。これが一番、現実的。起こってもいいくらい普通の話。ナチュラルな発想。レアリスムな理屈」
「でも、ドアには鍵を掛けたんでしょう?」と黒瀬さんの細い声が無駄な密室に響く。「部屋に入ることさえできないんじゃ……」
「握らせて、部屋を出て、鍵を閉める」
「その鍵が部屋の中じゃ無理ですよ!」
「じゃあ簡単。握らせた鍵と閉めた鍵は別だ」
 次の、二人の反応は少し遅かった。
「合鍵はありませんよ?」と黒瀬さんは少し笑って言う。
「そうだね。合鍵じゃなくて、別の鍵」
「先輩、話が見えてきません」
「話の切り口が悪いからね」
 僕はドアに掛けられている絵を外してみる。
「奇麗な絵だね」
「先輩?」
「さてメガ、この絵はなぜ、ここにある?」
「飾りですね。理由はありません」
「いや、あるね。そして、もしも絵なんてなかった状況を想像し、瞬時に答えを弾き出してみて。この奇妙な館の形を彷彿してみたら、この絵の必然性と存在意義にぶち当たるに違いない。この絵は理屈っぽいよ」
「あ、ひょっとしたらそれ、目印ですか」
「そうなんだよね。だって同じ部屋が幾つも繋がっているもんね。いちいち、数えてないよね普通は。だから、最後の部屋には絵を飾り、金色の鍵を使うっていう目印にしたわけ。事もあろうか、この絵は一見、部屋を定義しうる」
 最後の部屋には絵を飾る。
 ならば
 絵があれば最後の部屋か?
 ここは譲れない。
「もう分かったはず。犯人はね、この絵を外して、そして、一つ前の部屋のドアに飾ったんだよ」
 一つ少ないはずだよね。
 餌の飾っている部屋に行くまでの部屋が、一つ少なくなるはずなんだよ。
 部屋の個数を数えていたら何の不思議はない。
 あっという間に解けてしまう謎だった。
「例えばこんな話はどうだろう? 犯人は夜中に京塚さんを奥から二つ目の部屋に呼び出して殺害。そして、ドアの隙間から覗くと、死体しか見えないようになるよう死体を移動させる。そして、奥の部屋のドアにある絵を外し、一つ手前の部屋のドアにつける。そして、金色の鍵を京塚さんに握らせて、そして、銀色の鍵で現場に鍵を閉める」
 実はこの部屋は
 この密室は銀色の鍵で簡単に開いてしまう。
 密室なんてそもそも不思議じゃあないんだよ。
 但し、部屋の鍵が密室の中にあって、初めて不思議になる。
 ただ鍵を閉めれば、密室なんだから。
「そうなんだよ、メガ」僕は、後輩を見ずに続ける。「こんな事件、現場に入ってしまえば、鍵を開けてしまえば、一瞬で解ける」
 奥の部屋だけ特別だ。
 違いは絶大で破壊的。
 一瞬で区別でき
 瞬時に見分けられる。
「密室を開けなかったから、分らなかっただけ」
 ここは密室コレクション。
 収集家には一生解けない謎を、研究者は瞬時に解く時もある。
「さてさて。黒瀬さん」
「…………」
「密室コレクションの人間は、この扉を絶ッッ対に開けない確信と確証と保証があっただろう。だから、犯人はメンバーの中にいても不思議じゃあないね」
「まさか……でも」
「でもね。こんなの僕がしなくってもいいんだよ。警察が到着して、それで密室を開けてしまえば事件は解けるし、犯人も捕まるだろうね」
「でも……」と黒瀬さんは言う。左手を胸に当てていた。「貴方の推理は確かに凄いですけど、そんなことして誰か何か得をするかな……?」
「満足はするだろうね。でも僕は逆に、さっきの例え話が真実を貫いているだなんて一言も断言していない。あれはプロトタイプだ。雛型で骨組み。下書きで思いつき。但し、僕はもう一つ例え話をするかもしれない」
 僕はここで間を入れる。
 この部屋には何もない。
 ドアが二つに、鍵が二つ。
 蛍光灯が異様な部屋を異常に照らす。
 外を忘れた部屋は常識を疑う。
 認識を眩ませ、人間を騙し始める。
 僕は、絵を壁に凭れかけた。
 ここは無駄に理屈っぽいんだよね。
「例えば、京塚さんは、本当は一番奥の部屋で殺されたとする。そして、偽造死体をその一つ手前の部屋に置いたとしたら? そして、さっきと同じようにしたとしたら?」
 どっちにしても京塚さんは、『奥の部屋で殺された』として違わない。
 どの道、密室殺人は密室殺人として疑わない。
「こうして、誰もいなくなっているであろう現場に訪れて、手前の部屋を片付けてみると……」
「それでも無理ですよ!」
 彼女は叫んで言う。
「だって……だって……」
「金色の鍵は部屋の外にあるから京塚さんに握らせることはできる」
「その後は!? 今度は密室にできないよ!」
「後は犯人の趣味と、どこまで本気かって話だよ。取り敢えず、『現場の勘違い』をどこまで貫き通すか、世間一般に『密室殺人』をいかに貫き通すか?」
「どういうこと!?」
「知らないね。犯人の考えることなんて四コマ漫画にもならないよ。例えば、この館を燃やすかもしれない。警察が来た頃には全焼し終えた後かもしれない。警察は現場の燃え残りを調べるかもしれない。犯人はその時に『密室殺人』にするかもしれない。『メンバーの証言通りの密室殺人』にするかもしれない」
 犯人は嘘を隠すため
 館を燃やしうる。
 嘘吐きは泥棒の始まり。
 嘘を隠すなら、そのうち泥棒までしかねない。
「金色の鍵を持って、奥の部屋に入り、京塚さんに握らせる。その後、館を燃やす。部屋が燃え崩れる瞬間に抜け出すかもしれない。どうだっていい。なんだっていい。少なくとも───」
 僕は、部屋のドアを叩いてみせる。
「この部屋は、奥の部屋じゃあない」
 そして
「警察が来れば、犯人が分かる」
 だから
「だから、こんな話しても仕方ない」
 もし
「もしも、君が犯人なら分かっているでしょう?」
 分からないはずがない。
「こんなことやったって」
 どんなに誤魔化したって
「どれだけ搔き混ぜても」
 どこまでも逃げ続けても
「どうしようも逃れないね。無理なんだよ。こんなちゃちぃことを用意してもどうしようもない。君の言う通り、今度は密室にできない。もう無理なの。分ってるはず」
 ただただこの事件は無意味に理屈っぽいだけ。
 真剣な遊び。
 あまりに意味のない戯れ。
 現実性を乖離した創意工夫。
 ただただ密室をコレクションしただけの話。
 刺激が強い鍵の使い方。
「あ、あはは、あはははははは!!」
 彼女はヒステリックになって破笑した。
 理由なんてない。
 ただただ現実がいやになって
 ただただ自分が馬鹿馬鹿しくなって
 ただただよく分らなくなって
 ただ単に、可笑しくなって
 本当に恐ろしくなった人間が笑う時だってある。
 すべての認識を開放して、自分を忘れて、生きている感覚も放り投げて、ただただ笑い転げる。それすらも気づかない。
人生最後の欠落。
或いは、終わりに気づかない終わり方。
 こんなの僕がしなくてもいいのにね。
 でも僕が相手しないと、彼女は帰ってこない。
「さて。僕は言いたいことをだいたい話した。君の方はまだまだあるんでしょう?」
 僕は近づいて言う。
「誰が何を得するか? これは君が意見するディスカッションだ」
 彼女は、すっと笑い終える。
 思ったより、冷静だ。
 そんな彼女は楽しそうに話す。
「動機は簡単よ。ただの復讐。殺すしかなかったの! 殺さずにいられなかったの! ホントに、本当に憎かったらいてもたってもいられないわ! 殺したって私は得しないのに、でもでもでも、あまりに憎かったら、自分の人生がどうなってもいいから、自分の人生一個分で、相手を殺してやろうと思うのよ」
「なら仕方ないね」
「ええ、仕方ないわ。鍵、鍵っていうけど、鍵の中には数十万の値を張る鍵があるのよ。私の父も鍵のコレクターだったわ。お金もないけど、ちびちびと鍵を集めてたの。数十年かけてね」
 僕は腕組をする。
 ここは僕が口を挟むところじゃあない。
「でも、そのほとんどオルタナティブだっていうことを知らされた。つまり、偽物だってわけよ。その後、知ったんだけど、その流通は大方、あの会長さんがやってたってわけ。つまり、あの人が父に偽鍵を買わせてたわけよ」
「それで?」
「それで、父は死んだわ。自殺だった。偽鍵は全部、会長に受け渡たされた。でも、その後にそれが本物だって話になって、つまり、本物がオルタナティブだっていう話になったのよ!」
「で?」
「あの会長が全部仕組んだのよ! だから、私はね、私は、我慢できなくて……」
 今度は、さめざめと泣き始める。
 もう既に、彼女は興奮し過ぎて空回りしていた。
 何がそこまで辛いのか
 なぜ殺すまで憎いのか、よく分らない。
 きっと何年もの間に、憎しみが何かに変わったんだろう。
 なら、殺す動機なんてなかった。
「それなら、仕方ないね」
 僕は言う。
 下らない動機でも
 しょうもない理由でも
 もう、仕方ない。
 彼女の話がどこまで本当なのかなんて分からない。
 ただ分かることは、どうでもいいことばかり。
「先輩」メガだった。「本当に、仕方ないって思ってるんですか?」
「時に人間は、有用性を無視して突っ走る。その先に満足さえあるのなら、満足を得ようとする」
「私、彼女が本当に満足しているようには思えません」
「ああ、なら自己満足だろうね」
 ただ密室は解け崩れた。
 でもそれだけ。
 何の解決でもない。
 そもそも『問題』なんてあまりに些細だった。
 達成感も充実感も、あまりにブランクだった。
 得られるものなんて、あまりに無意味だった。
 満足なんて上の空。
 一瞬の躊躇と疑心と
それから殺意が生まれた勢いの流れとその強さ。
通り過ぎたすべてに見向きもせず
通り抜けるもの全部を目配りもせず
初め見つめていた目標も目的も見定めず
そもそも人生とかいうスパンを振りかざし
結局、運命という名のアンバランスを壊し崩す。
密室が理屈で開けられるとき、すべてが光に照らされて、一瞬で消えていく。
これを儚いと言うのか
それを淡いと言うのか
そんなこと僕は知らないけど
知っているとしたら、ただ理屈っぽく、それでいて、やっぱり単純で明らかなことくらい。
例えば、鍵というものとか

 掛ければ開かず

 開ければ開(ひら)くドアの鍵
 
 取扱いにはご注意を



《END》
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テーマ:小説 - ジャンル:小説・文学

【2008/04/02 23:01】 | 理屈通しシリーズ | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
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